こどもたちのいる竹島の暮らしが続いていくために

こんにちは。今年の4月から大学を休学し1年間インターンシップをしている木崎 愛菜(きさき えな)と申します。早いもので、島暮らしも2ヶ月が経とうとしています。今回は、はじめての出張で三島村「竹島」に訪問したレポートになります。


島に来てからというもの、釣りをしたり、人生で初めて魚をさばいてみたり、おばちゃんに挨拶したら野菜やお惣菜をおすそ分けしてもらえたり、最近は地域のバレーボールにまぜてもらったりしています。
月曜日と金曜日には朝4時半から揚げ豆腐も作る日々。いつもお豆腐を買いに来てくれるおばちゃんに顔と名前を覚えてもらい、「島の人」としての日々も、だんだん板についてきたような気がします。
そんな日々の中で、私の仕事は山下商店の店番や揚げとうふの製造のほか、通販サイトの運営を任されています。 通販は、対面の接客とは違い、お客様の顔が見えない分、どんな風に届いて、どんな気持ちで受け取ってもらえているのかを想像しながら、商品をお届けしています。だからこそ、自分の手で届ける商品がどんな場所で、どんな人たちによって作られているのかを知ることが大切だと感じるようになりました。

そんな思いもあり、今回は山下商店の「おいしい通販」で取り扱っている「大名筍」の生産現場である竹島に行かせてもらいました。
人口50人の暮らす「竹島」
「竹島」と聞くと、島根県に位置する“領土問題”で話題にある竹島を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。実際私も、「今回行くのって、あの竹島ですか?」と真顔で聞いてしまいました。

実際はその竹島ではなく、鹿児島県三島村の「竹島」でした。鹿児島港からフェリーで約3時間のところに位置し、人口はわずか50人の島。その名の通り、見渡す限り大名竹。この大名竹はよく見る孟宗竹とは違い、とっても細くてしなやかなものでした。
人口50人のうち、約半分は生徒と教員だそう。ガソリンスタンドはなく、ガソリンは”注文制“。郵便以外の配達サービスがないので、島民たちはフェリーの到着時間に合わせて港に集まり、各々が自分の荷物を受け取ります。
フェリーが着く頃になると、島の人たちが集まり、港でロープを引いたり、タラップをかけたり、それぞれの持ち場へ。頼るサービスが少ない環境でも、当たり前のように、お互いが役割を持って暮らしをまわしている姿に“無駄のないかっこよさ”のようなものを感じました。
島の未来をつなぐ人たち

今回、竹島を案内してくれたのは、NPO法人みしまですよ 代表理事の山崎晋作さん。生まれ育った竹島にUターンし、唯一の商店「竹のいえ」を営みながら、島の暮らしや産業を未来へつなげようと動いている方です。
「こどもたちの未来のために、この島をちゃんと残していきたい」
そう話してくれた晋作さんのまなざしや言葉のひとつひとつに、この島への深い愛情と、強い思いを感じました。
春の風物詩である大名筍も、その思いのひとつ。ただ売るのではなく、ちゃんと島の産業として育てていくために、見せ方や届け方にも力を入れています。けれども、島の人口は少なく、筍の収穫から発送まで、島の人たちだけで完結させるのはやはり大変です。だからこそ、これからは、島の外から関わってくれる人たちの力も借りながら、産業を続けていきたいと晋作さんは語ります。
大名筍が届けられるまで
この春の時期の通販で「注文がたくさんあるよ!」と聞いていた大名筍。でも正直、どんな場所で、どんな風に採られているのかは想像がつきませんでした。せっかく届けるなら、ちゃんと自分の言葉で紹介できるようになりたい!そんな思いで竹島に行くことを決めました。

「大名筍」は、昔は大名しか食べられなかったほど高級品だったことから由来しています。アクがほとんどなく、そのままでもパクっと食べられるところが特徴です。


わたしが参加した日は、午前中に筍掘りをして午後からの仕分けと梱包作業に参加しました。採ってきた筍を、それぞれの表情を見ながら、見た目や色で仕分けます。そのあと、カットする人、皮をむく人、包む人、みんなが役割分担をして、リズムよく作業が進みます。
発送する筍は、青果で届けるからこそ、見た目のきれいさを大切にしています。少ない人数なので朝早くから夕方までと時間はすごくかかります。梱包もできるだけ新鮮なままで届くための工夫や、ダブルチェックは欠かさないなど、一本一本丁寧に作業されていました。


ちょっぴり形がいびつだったり、色味が違ったりするものは、皮をむいて“水煮用”として活躍の場を変えていきます。水煮の加工品づくりも竹島の新しいチャレンジのひとつです。
ちなみに、ちょうどこの日は、島の小中学生が授業の一環で工場を訪れる日でした。工場内がこどもたちの声でにぎやかになり、「ここ何十年で、いちばんの人手だ」と嬉しそうに話されていたのが印象的でした。
作業が終わったのは夕方18時頃。みんなが「おつかれさま~!」と解散したあとも、晋作さんは加工場に残って、最終確認や戸締りまでしっかり。すべてが終わったのは18時半ごろでした。

この日は、採れたての筍を使った卵とじとバター炒めをごちそうになりました。卵とじは、ふわっとやさしい味付けで、筍のシャキッとした歯ごたえがアクセント。噛むたびにほんのりと甘みが広がって、なんだか気持ちまでほぐれていくようなやさしい一品でした。バター炒めは、香ばしい香りとバターのまろやかさが、筍の素朴な味をグッと引き立ててくれて、ついつい箸が止まらない。
「島の恵みをその場でいただく」ってこういうことか!と実感。その贅沢感と、台所に立つ晋作さんの温かさがぎゅっと詰まった味でした。
暮らしと学びと遊びと


そして、竹島で見た記憶に残ったのは、こどもたちが楽しそうにしている風景でした。授業の一環で筍の作業に参加したり、朝釣りをしてからランドセルを背負って学校に行ったり、プールの授業は海であったり。休日には、自分たちで秘密基地を作って遊んでいたりして、暮らしと学びと遊びが自然とつながっている竹島の暮らしに、心を動かされました。この土地ならではのフィールドがしっかりといかされていて、そこにいるこどもたちの姿が、まるで島の風景そのもののように感じました。こんな風景が、これからもこの場所に残っていってほしいなと思います。
出発する前に、晋作さんに竹島を案内してもらいました。この日は天気にも恵まれて、遠くに屋久島や硫黄島がくっきりと見えました。青い海と空に囲まれた竹島の歴史や文化の話に、耳を傾けながら島の時間をゆっくり味わいました。
最後に訪れたのは、昨日一緒に大名筍の作業していたおばちゃんたちが集まっている「老人ファーム」。畑仕事を楽しそうにこなすその姿に、島の日常のあたたかさを感じました。「またおいでね〜!」と見送ってくれたみなさんの笑顔が、心の奥にじんわりと残る竹島の旅でした。
自分で見て、体験して感じたこと、が伝える力になる

今回の竹島での経験は、ただ「現場を見た」にとどまらず、自分の中の“届ける”という仕事の意味を見つめ直す機会になりました。普段、通販ではパソコン越しに商品を登録したり、梱包したりしていますが、そのひとつひとつの背景には、手間ひまを惜しまず動く人たちの姿があります。作業の大変さやこだわりを肌で感じたことで、ただ「売る」だけではなく、受け取る人にどう伝えるかを、もっと大切にしていきたいと思いました。
「見えない接客」だからこそ、想像する力、知ろうとする姿勢がとても重要だと気づきました。自分が見た景色や感じたことを、文章や言葉にして誰かに届けることも、また接客のひとつだと思いました。これからも、自分の目で見たことを大事にしながら、山下商店のおいしい通販を通して島の魅力や人の想いを伝えていきたいなと思います。
ぜひ、この時期だけの味わいを楽しめる「大名筍」をみなさんの食卓でも楽しんでいただけたら嬉しいです!
